出店候補地の商圏人口を無料で調べる方法|国勢調査のメッシュデータを半径1・2・3kmで集計する手順と、人口の多さだけで売上を見込まない理由
出店候補地の商圏人口を無料で調べる方法|国勢調査のメッシュデータを半径1・2・3kmで集計する手順と、人口の多さだけで売上を見込まない理由
出店候補地のまわりに何人住んでいるかは、有料の商圏分析ツールを使わなくても、公的データだけで出せます。やり方の結論は次のとおりです。
- 国勢調査の「メッシュデータ」を使います。 政府統計の総合窓口(e-Stat)から無料・登録なしでダウンロードできます。地図を500m四方や250m四方のマス目に区切り、マス目ごとに人口・男女・年齢区分・世帯数が入っています。
- 候補地の住所を緯度・経度に直し、中心が半径1・2・3km以内に入るマス目の数字を合計します。 区や市の単位で見るより、来店する人の範囲に近い数字になります。
- 年代を細かく見たいときは、自治体が公開している町丁別・年齢別の人口で補います。 メッシュデータには5歳刻みの年齢がないためです。
- 出した人口は「既存店と同じ物差しで比べる」「ターゲット層の厚みを見る」「開業前集客の範囲を決める」ために使い、売上の見込みには使いません。
以下、2026年9月に名古屋市内の出店候補地で実際に集計した数字をもとに、手順と判断基準を説明します。
使うデータは3つ
| データ | 入手先 | わかること | 限界 |
|---|---|---|---|
| 国勢調査 メッシュデータ(2020年) | e-Stat「地図で見る統計(統計GIS)」のデータダウンロード | 人口・男女・0〜14歳/15〜64歳/20歳以上/65歳以上/75歳以上・世帯数・高齢単身世帯など | 5年に1度の調査で、年齢は大きな区分のみ |
| 町丁別・年齢別人口(住民基本台帳) | 各自治体の統計ページ | 最新に近い時点の人口と、5歳または10歳刻みの年齢 | 自治体ごとに形式や更新時期が違い、男女別がない場合もある |
| 住所から座標を出す検索 | 国土地理院の住所検索 | 候補地・町丁目の緯度・経度 | 番地まで一致しない住所は近くの代表点になる |
メッシュデータは全国で同じ形式なので、複数の候補地や既存店を同じ条件で並べられるのが強みです。町丁別データは新しく、年代も細かい代わりに、自治体をまたぐと形式をそろえる手間がかかります。両方で出して差を見ておくと、数字の信頼度も確かめられます。
手順
1. 候補地の住所を緯度・経度に直す
国土地理院の住所検索(https://msearch.gsi.go.jp/address-search/AddressSearch?q=住所)に住所を渡すと、緯度・経度が返ってきます。地理院地図の検索で使われている仕組みで、公開APIとしての利用条件は明示されていないため、必要な住所だけを1件ずつ調べる使い方にとどめます。
返ってきた住所表記が入力と番地まで一致しているかは必ず確認します。一致していない場合は町丁目の代表点が返っているので、地図で位置を確かめてから使います。
2. どの範囲のファイルが必要かを決める
メッシュデータは「1次メッシュ」(約80km四方)ごとにファイルが分かれています。1次メッシュの番号は、緯度に1.5を掛けた整数部分と、経度から100を引いた整数部分を並べたものです。たとえば緯度35.2・経度136.9なら「5236」で、名古屋市の大部分がここに入ります。北緯35度20分(35.333度)より北なら上の段(5336など)、東経137度より東なら右隣(5237など)に変わります。
候補地がこの境目に近いと、半径3kmの円が隣のファイルにはみ出します。その場合は隣の番号のファイルも一緒にダウンロードします。
3. e-Statからダウンロードする
「地図で見る統計(統計GIS)」のデータダウンロードから、2020年国勢調査のメッシュ単位の人口・世帯の表を選び、1次メッシュ番号を指定して取得します。マス目の大きさは500m(4次メッシュ・番号9桁)と、さらに細かい250m(5次メッシュ・番号10桁)があります。ファイルはzipで、中身はカンマ区切りのテキストです。
実例では250mメッシュの表を使いました。名古屋市を含む5236のファイルで約3.5万行あります。
4. ファイルを正しく読む
ここでつまずきやすい点が3つあります。
- 文字コードはShift_JIS(cp932)です。 プログラムでUTF-8として読むと見出しが文字化けします。
- 1行目は項目コード、2行目が日本語の項目名で、データは3行目からです。 先頭列がマス目の番号です。
- 人口の少ないマス目は、年齢などの内訳が「*」で隠されています(秘匿処理)。 2列目が「2」の行が隠された側で、内訳は隣のマス目(2列目が「1」の行)の内訳に合算されています。ただし、人口総数と男女の数字は「2」の行にも入っています。
このため、人口総数・男女はすべての行をそのまま足し、年齢などの内訳は「*」を0として足します。 こうすれば隠された内訳は合算先の行で数えられ、ファイル全体では二重にも漏れにもなりません(円の境目では、内訳が隣のマス目側で数えられることがあります)。「*」が並ぶ行を丸ごと読み飛ばすと、総数が実際より少なく出ます。
5. 半径内のマス目を合計する
マス目の番号から中心の緯度・経度を計算し、候補地との直線距離が半径以内のマス目の数字を合計します。名古屋あたりの緯度で、500mメッシュは南北約460m×東西約570m、250mメッシュはその半分の約230m×約280mです。中心が円に入るかどうかで丸ごと足すか外すかを決めるため、半径1kmでは誤差が出やすく、2km・3kmでは小さくなります。
250mメッシュの番号は、先頭9桁が属する500mメッシュの番号です。250mのまま集計しても、先頭9桁でまとめて500m単位で集計してもかまいません。計算はPythonなら40行ほどで書けます。表計算ソフトでも、マス目番号から中心座標を出す列と距離の列を作れば同じことができます。
6. 年代は町丁別データで補う
客層の年代がはっきりしている業態では、「40〜79歳の女性」のような区切りで見たくなります。メッシュデータでは20歳以上・65歳以上・75歳以上までしか分かれていないため、自治体の町丁別・年齢別人口を使います。
町丁目ごとに代表点の座標を住所検索で出し、代表点が半径内に入る町丁目の人口を合計します。名古屋市の町丁別データは10歳刻みの総数で男女別がなかったため、区全体の同じ年代の女性比率(40代49%〜70代54%前後)を掛けて推計しました。隣の市は5歳刻み・男女別の町丁別データを公開していたので、そちらは実数を使っています。自治体ごとに形式も公開時期も違うので、推計した部分と基準時点は資料に明記しておきます。
実例:名古屋市内の候補地で2つの方法を比べた結果
名古屋市内の出店候補地で、同じ半径をメッシュ(2つの細かさ)と町丁目で集計した結果です。
| 半径 | メッシュ・250mのまま | メッシュ・500m単位にまとめた | 町丁目の合計(住民基本台帳) |
|---|---|---|---|
| 1km | 23,495人 | 23,278人 | 21,354人 |
| 2km | 97,454人 | 94,924人 | 93,728人 |
| 3km | 238,858人 | 239,577人 | 233,013人 |
メッシュは2020年の国勢調査、町丁目は名古屋市分が2026年9月、隣の市の分が2026年4月時点の住民基本台帳です。
町丁目の合計との差は、2kmで約1〜4%、3kmで約3%でした。調査時期も集計の単位も違うデータで、この程度の差に収まっています。1kmでは差が約9〜10%に開きます。マス目や町丁目を丸ごと足すか外すかの境目の影響が、小さな円ほど大きく出るためです。比較の主軸は2kmに置き、1kmは参考値として扱いました。
年代別では、半径2km以内の65歳以上の女性が約1.4万人(メッシュ)、40〜79歳の女性が約2.4万人(町丁目からの推計)でした。
もう一つ分かったのは、商圏が区の境をまたいでいたことです。半径3km圏の人口を区・市別に分けると、候補地のある区の人口は半分に届きませんでした。区単位の統計だけを見ていると、実際の商圏とずれた数字で判断することになります。半径で集計する理由はここにあります。
同じ方法で同じグループの既存店すべての半径人口も計算し、候補地を並べました。既存店と同じ物差しで比べると、候補地の立地条件を数字で説明できます。
人口の多さだけで売上を見込まない理由
ここで注意したいのが、「人口が多いから売上も多いはず」という読み方です。
商圏人口は「来店する可能性がある人の上限」を表す数字です。来店型のサロンでは、そのうち何人が実際に来るかは、口コミの数と評価、予約のしやすさ、店前の見えやすさや駐車場、近くの同業店の数、開業前からの集客の量といった別の要素で決まります。これらは店ごとに違うため、人口に一定の割合を掛けて売上を出しても、その割合自体に根拠がありません。
このため、商圏人口は次の用途に絞って使うのが安全です。
- 既存店と同じ物差しで比べる。 「既存店の中で上位か下位か」は、出店判断の材料として説明しやすい情報です。
- ターゲット層の厚みを確かめる。 年代を絞った人口が極端に少なくないかを見ます。
- 開業前集客の範囲を決める。 ポスティングやチラシの配布範囲、Web広告の配信地域を決める基準になります。
売上の見込みを立てるときは、人口から逆算するのではなく、既存店(または同じ業態の店)の開業月からの月別実績を当てはめるほうが根拠を説明できます。立地や運営体制が近い店を選び、慎重・標準・積極の3本で出しておくと、銀行や関係者への説明でも数字の出どころを示せます。融資資料の組み立ては「美容室開業の融資資料は何を出すか」で詳しく扱っています。
前を通る車や人の数(交通量)から売上を見積もる方法も、同じ理由で根拠になりにくい数字です。看板の効果の見積もり方は「美容室の看板は何か月で回収できるか」で解説しています。
判断基準のチェックリスト
商圏人口を資料にまとめるときは、次の点を確認します。
- 半径1・2・3kmの3段で出しているか。 比較の主軸は2kmに置くと、集計方法による差が小さくなります。
- 区・市の単位ではなく半径で集計しているか。 区の境に近い候補地ほど差が出ます。
- データの基準時点を書いているか。 国勢調査は2020年、町丁別は自治体ごとに何年何月の数字かを明記します。
- 推計した数字に「推計」と書いているか。 女性比率を掛けた年代別人口などが該当します。
- 既存店も同じ方法で集計しているか。 マス目の大きさや集計方法が違う数字同士を並べると比較になりません。
- 競合店の数を同じ半径で数えているか。 自治体が公開している美容所の一覧を使うと、半径内の件数を同じ方法で出せます。
- 人口から売上を逆算していないか。 売上の見込みは既存店の実績推移から出します。
起こりやすい見落とし
- 秘匿処理の行を読み飛ばす。 「*」が並ぶ行にも人口総数と男女の数字は入っているので、行ごと除くと総数が少なく出ます。
- 1次メッシュの境目をまたいでいるのに、1ファイルしか読んでいない。 円の一部が欠け、人口が少なく出ます。集計後に、半径内のマス目の数が円の面積に見合っているかを見ると気づけます。
- 座標が番地まで一致していない。 町丁目の代表点のまま計算すると、候補地から数百mずれた円で集計することになります。
- 国勢調査の数字を「最新の人口」として書く。 2020年時点の数字なので、増減の大きい地域では町丁別の最新データと見比べます。
開業後の立ち上がりで差がつく点は「美容室のオープン直後に売上が伸びない店と伸びる店の差」にまとめています。
まとめ
- 出店候補地の商圏人口は、国勢調査のメッシュデータをe-Statから無料で入手し、半径1・2・3kmで合計すれば出せる
- 読み込み時は文字コード(Shift_JIS)・見出し2行・秘匿処理に注意する。総数と男女は全行を足し、内訳は「*」を0として足す
- 年代を細かく見るなら自治体の町丁別データで補い、推計部分と基準時点を明記する
- 名古屋市内の実例では、メッシュと町丁目の差は2km・3kmで1〜4%に収まった
- 商圏人口は既存店との比較・ターゲット層の厚み・開業前集客の範囲決めに使い、売上の見込みには使わない
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